|
翌朝、目が覚めると左腕の痛みはずいぶんと和らいでいた。体全体にけだるさが残ってはいたが、あとは回復を待つのみ。男の美学を守り抜いたという充実感、達成感から、気分は爽快だった。
そういえば、いつからオシッコしてないだろう?なんか膀胱のあたりがヘンなかんじ‥‥‥そう思って、僕は下半身の方に何気なく目をやった。すると毛布の下から透明のビニールチューブが出ているではないか。
何だこれ?と思ってそのチューブを目でたどっていくと、ベッドの脇に下げられた四角い透明のビニールバッグにつながっていて、その中には黄色っぽい液体が入っていたのである。
ヤバい!!これは何かとんでもない処置をされている―そう直感した僕は、あわてて毛布をめくった。すると‥‥‥
「ガ━━(;゚Д゚)━━ン!!! なっ、なんじゃこりゃあぁぁぁ!!!!!」
そこで目に飛び込んできたのは、『男の美学』なんて言葉はいっぺんにどこかへ吹っ飛んでしまうような、衝撃的で恥辱的な光景だったのだ‥‥‥。
なんと!T字帯の脇からちょこんと顔をのぞかせた僕のかわいいチ○ポの先っちょに、無残にも透明のチューブが突っ込まれているではないか!!
つまり、最初に見つけたチューブの一方の端は、僕のチ○ポを通って膀胱の中にあり、もう一方の端につなげられたビニールバッグの中に溜まっていた液体は、僕のオシッコだったというわけだ‥‥‥。
やられた‥‥‥。これが世の男性オペ患者に恐れられつづける屈辱感満点の荒技、"尿道カテーテル挿入"、俗称"チン管"(ちんくだ)ってやつか‥‥‥。噂には聞いていたが、まさか腕の手術でやられるとは思ってもみなかった。
誰なんだ?オレのチ○ポをゴム手袋した手でつまんで、「やだ、カワイーイ!」とかもてあそびながらチューブ突っ込んだ看護婦は!?
ズルいよ、ひきょうだ。麻酔で眠ってるあいだに‥‥‥きたねえよ!! 女なんか、大っきらいだぁぁぁぁ‥‥‥。
僕はどうしようもない脱力感に襲われていた。
男の美学にこだわり続け、それを必死になって貫き通したつもりで満足していたのに、実は自分の知らないところで、それは跡形もなく無残にブチ壊されていたのだから‥‥‥。
とにかく戦いは終わった。いや、そもそもが戦いと思っていたのは僕だけという、完全な一人相撲。僕はようやく自分の間違いに気づいたのだった。
だいたい、病院に『男の美学』なんてきれいごとを持ち込むこと自体間違っているのだ。
例えば、たびたび繰り返されている医療ミス(お、また入ったぞ軌道修正モード)。あれを見てわかるように、看護婦さんをはじめとする医療従事者はすべて、僅かなミスでも最悪の場合患者の死につながる状況の中で働いているのだ。いってみれば真剣勝負の世界。
そんな中に、『男の美学』なんておちゃらけた上っ面だけのものが入り込む余地など、あろうはずもない。
ごめんなさい僕がバカでした。小坂政弘40歳、初めての入院体験でひと皮むけました‥‥‥って、入院前からすでにむけてたんだけど!?
そう、チン管入れられる時に皮かぶってたら、ちょっと恥ずかしいもんね(←オチはやっぱりそこかよ!)。
|
|
|